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その時、スッと、ひとり分、離れた隣に人影を感じた。
「まだまだ暑いな」
えっ!?
見上げれば、さりげなく隣に登場した優輝さんが、同じ手すりにも たれながら遠くを見つめていた。
「……そうですね」
答えながら、あたしもまた遠くに視線を戻した。
優輝さんは、それ以上何も言わずに、ただ隣に一緒に居てくれた。
優輝さんは、今の社内で、社長の信頼も厚い。
そして、社長は、今回の専務就任披露パーティーに一緒に行ったことも知っている。
優輝さんは、どう考えても、あたしの退職理由について、青木社長からクレームがついたという事をご存知に違いなかった。
だから、こうして黙ってそばに居てくれていて……
麗香さんは、優輝さんも冴子さんもあたしの存在に遠慮して苦しんでいると言っていたけれど、ふたりは、そんな事で態度を変えるような方たちではない。
常に、あたしに接してくださる時は、尊敬する姿を貫いてくださっていた。
そして、今も、こうして……
「……和也さんに、笑顔でお帰りなさいって言わなかったから、バチが当たっちゃいました」
あたしは、心配をかけたくなくて、おどけた笑顔を浮かべながら呟いた。
「バチ?」
「えっ!?」
「ふーん、バチか……」
自然と呟いた言葉に、そこまで反応するとは思っていなかったあたしは、思わず優輝さんを見上げた。
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