1546人が本棚に入れています
本棚に追加
「更科さん、どうされたんですか?少し意味が解らないです……」
優しく微笑む更科さんを見上げ、あたしは、素直に伝えた。
あたしの言葉に、微笑みを浮かべたまま、更科さんは視線をあたしの右手に移した。
あっ!?
思わず、更科さんの左腕に添えていた右手を引き抜こうとしたが、一瞬で更科さんの脇に挟まれ、阻まれた。
引き抜く事の出来なかったあたしの右手には……
和也さんからの指輪が、静かに輝いていた。
「逃がさないよ」
更科さんの小さく発せられた言葉が、耳に届く。
「ごめんなさい」
「謝る事なんて、何ひとつないけど?」
静かに降り続く雨が、周りから遮断する。
外にいるのに、傘の中は、まるで密室のようだった。
「誰にも言わないでください」
あたしは、抵抗をやめて、静かに呟いた。
「もちろん。だから安心して、俺には本当の気持ちを聞かせてほしいな」
もう一度、更科さんを見上げると、うれしそうに微笑む笑顔があった。
最初のコメントを投稿しよう!