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「あらっ、優輝」
「いらっしゃいませ優輝さん」
電話を終えた薫さんとキリのついた房子さんが、玄関から出迎えた。
「薫さん、房子さんお久しぶりです。
薫さん、先日は、父へのお祝いをいただきましてありがとうございました。くれぐれもよろしくお伝えするようにと賜りました」
「喜んでいただけてよかったわ」
優輝さんと薫さんは、ずいぶんと古いお付きあいのようだった。
「今日は、どうしたの?」
「ええ、今、上海から戻って来たところなんですが、更科のお願いした品物の受け取りを頼まれまして」
「ちょうどよかったわ。用意出来てるわよ」
「あと、よろしかったら、食事に連れて行きたいんですけど」
「あらっ、うれしい。すぐに支度するわね」
滑らかな大人の会話が進んでゆく。
「あ、いや、その……」
珍しく優輝さんが、言いにくそうに言葉を濁した。
その時、房子さんが、クックックと、笑い声を上げた。
「薫さま、そのくらいで許して差し上げないと、優輝さんが、困っていらっしゃいますよ」
「だって房子さん、私もたまには、お食事に誘われたいじゃない」
「すみません薫さん。次回はぜひ」
「あらっ、約束したわよ優輝」
「はい。必ず」
ずいぶんと艶やかで楽しげな会話が、3人で交わされるのを、あたしは、じっと聞いていた。
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