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「優輝、雨の中、悪かったな」
「いや、上海帰りで、社に戻るには中途半端な時間だったから、いい休憩になるよ」
「忙しいのか?」
「まぁ、それなりにね」
仲の良いふたりが、穏やかな会話を交わす。
あたしは、そんなふたりの邪魔にならないように静かに見守っていた。
その時、優輝さんの携帯が鳴った。
「おっと、捕まったな……」
携帯を見ながら呟いた優輝さんが立ち上がろうとしたのを、更科さんが制した。
「お前は、ここで電話してろ。璃子ちゃん、よかったら、庭に出ようか」
「あっ、はい」
更科さんは、部屋の大きなガラス窓を開くと、立て掛けてあった大きな傘を開いて、あたしを庭へと促した。
更科さんは、左肘を折り畳み、「どうぞ」と差し出した。
小さく会釈をしたあたしは、右手で更科さんの腕に手をかけた。
雨は、傘に音をたてないように舞い降りながら、優しく降り注いでいた。
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