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新聞を広げている父親は、ニュースも聞きながら、目と耳、両方から情報を仕入れていた。
テレビや新聞では、連日、青木グループの不祥事が報道されていた。
思わずニュースに目が留まり、心が奪われる。
麗香さんは、どうしているのだろうか?
きっと、大変な思いをされている事だろう。
和也さんとの縁談は……実のところどうなっているのだろうか?
渡グループにも、影響が出るのではないだろうか?
「璃子!」
「は、はいっ」
ぼんやりしていた時に、父親に名前を呼ばれ、驚いて返事を返した。
「拓巳くんが待っているんじゃないか?」
父親が、新聞から顔を上げて、あたしに言った。
「う、うん。そうだね」
「璃子ちゃん、『村上姉さん』によろしく伝えてね」
キッチンから、手を拭きながら、母親が声をかけて来た。
「うん。ちゃんと『おめでとう』って伝えておくね」
返事を返しながら、玄関に向かうと、もう一度、母親に声をかけられた。
「璃子ちゃん」
「うん?」
「楽しんでいらっしゃいね」
えっ……
何気ないひと言だけど、優しい眼差しの母親の言葉に、一瞬、間があいた。
「あ、うん。楽しんで来るね」
「いってらっしゃい」
「いってきます!」
あたしは、手を振ると、笑顔で玄関を閉めた。
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