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「遅せーぞ!」
外に出ると、いきなり、家の中の優しい言葉とは違う、少し乱暴で冷たい言葉が飛んできた。
3日前に、ニューヨークから帰国した拓にぃだった。
「まだ、5分前じゃん」
「はぁ!?社会人は10分前集合だろう?」
「はいはい。申し訳ありませんでした、拓巳さま」
「おっと、ずいぶん素直だな」
「連れていっていただきますので」
拓にぃは、あたしの荷物を受けとると、後部座席に乗せた。
「かわいい格好してきたんだろうな?」
拓にぃが、和也さんに去年プレゼントされた白いコートを着たあたしを、上から下まで見下ろす。
「驚くなかれ!アニキ、中は、びっくりするくらいかわいい、新作のワンピースですぜ」
あたしは、おちゃらけながら言った。
「じゃあ、びっくりさせたら、みんなに迷惑かけるから、コートは脱ぐな」
「なっ!?なんで、そんな意地悪言うのよーっ」
「別にぃー。いくぞ」
拓にぃは、ふふんっと、鼻で笑いながら車に乗り込んだ。
「もぉーっ、お世辞でもいいから、もうちょっと『かわいいよ』とか、『素敵だよ』とか、栄養になる言葉をかけれないかなーっ」
「なんで、お前に栄養あげなきゃならないんだよ。それに、俺、お世辞言えないから」
「くぅおーっ」
目を見合わせれば、拓にぃが、ぷっと吹き出した。
いつも通りのテンポの良い会話に、笑顔で車に乗り込むと、そのままゆっくり走り始めた。
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