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イジワル……
「そうだよっ」
動揺を悟られないように、慌てて外に視線を戻す。
「ふーん。かわいくないな」
信号が青に変わり、車は、ゆっくり進み始めた。
なによっ。やっぱり、わざと教えてくれなかったんじゃん。
と、いうよりも、全部見透かされてんじゃん。
あたしは、小さなため息をつくと、観念して口を開いた。
「あのね拓にぃ……」
「あーっ、松本さんは、今日は、来れないな。帰国が間に合わなかったんだった」
「えっ!?」
素直に聞こうとした、まさに、その瞬間に、先に言われた和也さん情報に、あたしは、驚きの声を上げた。
「どした?」
してやったり顔の拓にぃが、チラリと視線をあたしに移した。
動揺丸出しのあたしは、必死に脳内の回避マニュアルをパラパラめくる。
「ふーん。そうなんだ……」
必死に探して発した、そっけない言葉とは裏腹に、もうひとりの自分が、止めようもないほどに、ガックリと肩を落としていった。
来ないんだ……
逢えないんだ……
ズブズブと沈む心は、自分でも驚くほどのものだった。
坂本さんと仲のよかった和也さんは、きっと来るって、心のどこかで思ってた。
だから、気合い入れて化粧して、例え話せなくても、『綺麗だな』って思ってほしくて……
あたし……
こんなに和也さんに逢いたかったんだ……
予想以上の胸の痛みに、身体が震えた気がした。
再確認した痛みを味わいながら、逃がしながら、あたしは、流れる景色に視線を移した。
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