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「俺じゃ駄目だ。お世話になってる方に紹介するなら、ちゃんと大切に思っている相手を誘え!
いないんなら、ひとりで行け」
拓にぃの返事は、予想外の、半分お説教じみたものだった。
「……わかった。ひとりで行きます」
「間違っても、合コンなんぞで掴まえた男なんか連れていくなよっ」
「ぐほっ。もう、いいじゃん合コンの話しは!あれは、行きたくて行ったんじゃないって言ったじゃん」
「はいはい、お兄ちゃんは、璃子ちゃんの事を、ちゃんと解ってますよー」
ぐおーっ!拓にぃのバカ!からかうような言い方に腹がたったが、拓にぃの言うことは、もっともで……。
あたしは、気付かれないように小さくため息をついた。
「ほら、着いたぞ」
広い駐車場を見れば、みんなを乗せて来たであろうマイクロバスに、隼人さんの物であろう高級車と優輝さんの車が止まっていた。
和也さんの車は、当然、止まっていない……
シュン……きっと、音で表現したら、こんな感じだろう。
心の中のもうひとりのあたしが、立ちあがれないくらいに、落ち込んでいた。
入口に近づくと、中では、今しがた到着したであろうみんなが、コートを脱いでいるのが見えた。
混雑を避けるために、あたしは、外でコートを脱ぐと、腕に掛けた。
「綺麗だよ」
突然降ってきた誉め言葉に、ふと見上げると、拓にぃが、にっこり微笑んでいた。
きっと、幼なじみだからこそ、感じて、見抜いた、あたしの胸の内。
これが、拓にぃのさりげない気遣い。
「……ありがとう」
あたしは、小さくお礼を言った。
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