1946人が本棚に入れています
本棚に追加
********
薫さんと和也さんと、あたしは、ゲンさんと時田さんの背中を見送っていた。
姿が見えなくなるのを確認した薫さんは、そっと頭を下げて、和也さんとあたしを残すと、静かに屋敷へと戻って行った。
あたしは、ゆっくりとお屋敷の周りを見渡した。
「あっ……」
いつも歩いて通る並木道が、電飾で鮮やかに彩られている。
電飾の飾りつけが、施されていることは知っていたけど、いつもは、まだ明るいうちに帰宅するから、こうして輝いている姿を見ることは初めてだった。
「少し歩こうか?」
「……うん」
和也さんの声に、小さく頷いた。
光のトンネルが、温かな光を放っている。
いつもとは違う景色に、心が踊った。
白い吐息を吐きながら、ゆっくりとふたり並んで歩く。
周りの木々や花たちが、まるで寝たフリでもして、息を潜めて見守ってくれているような……
そんな不思議な静寂に包まれていた。
「疲れたんじゃない?」
「ううん」
「なら、よかった」
ゆっくりと歩みを重ねながら、ぽつりぽつりと会話が交わされる。
あたしは、ふたりっきりの今に、少しだけ落ち着きを取り戻していた。
最初のコメントを投稿しよう!