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「続きは車内で。お風邪をひかれては困りますので。
どうぞ」
時田さんは、後部座席の扉を開けてくれた。
「ありがとうございます」
初めて時田さんにエスコートされ、乗せていただく。
高級車の後部座席に、思わず緊張が走った。
うわぁ、クッションが違う。
お嬢さまにでもなったかのような感覚に、身が引き締まる思いがした。
「では、参ります」
「はい。よろしくお願いいたち?ます」
しまった!?……噛んだ……
緊張のあまり、変な言葉遣いになったあたしを、時田さんが、バックミラー越しに見る。
思わず目を合わせたあたしたちは、同時に、クスッと笑いあった。
ゆっくりと走り出した車が、白く舗装された敷地内の道を進む。
五十嵐邸とは違い、すっきりとした並木道が、門戸まで続いていた。
門を通り過ぎた時に、振り返って表札を確認する。
大きな表札には、『松本』と、立派な行書体で書かれていた。
「ご確認出来ましたでしょうか?」
あたしの様子を見ていたのだろう。表札を確認したあたしに、時田さんが、尋ねた。
「……はい」
あたしは、小さく返事を返した。
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