1993人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、あたしは、久しぶりに清々しい朝を迎えていた。
昨夜は、別れた1時間後に携帯が鳴った。
「ただいま」
受話器から聞こえる、さっきと変わらない、穏やかな声。
「おかえりなさい」
うれしくて、恥ずかしくて、声がうわずる。
「今から、もう一度、逢いに行こうかな」
「えっ」
そんな、甘い言葉に、キュンと心が、小さく悲鳴をあげる。
『もう一度、逢いに……』だなんてっ♪和也さんったらぁ……
くぅおーーーんっ!
電話を切ったあと、キュンキュン叫ぶ胸の締め付けに耐えながら、お布団を抱きしめ、ベッドで悶えていた。
いつでも声が聞ける……
すぐに逢えるところにいる……
ニューヨークとの遠距離を経験したあたしは、和也さんが、本当に近くにいることを感じ、胸に広がる温もりを味わった。
「いってきまぁす」
いつも通りに家を出る。
朝のお日さまの光が、キラッキラッと、水面に照り返す日射しのように眩しくて、小鳥のさえずりまでもが、祝福の鐘の音に聞こえる。
2日前の景色とは、明らかに違う。
パレットに出したばかりの絵の具のように、みずみずしくて、艶がある。
なんて現金なあたし♪
いや、世の中の女性、みんなそうだと思う。
大好きな人と、心が通いあう、たったそれだけで、なんでも出来ちゃう気持ちになれちゃうんだから!
あたしの心は、軽やかにステップを踏みながら、いつものように五十嵐邸へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!