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「おはようございます」
いつも通りに門のインターホンで声をかけ、中に入る。
並木道を歩きながら、ゲンさんを探した。
あれっ?……いない。
「ゲンさーん」
叫んでみたが、あたしの声は、虚しく木々の中に吸い込まれていった。
しばらく、うろちょろ探してみたけど、やはり姿が見えない。
五十嵐邸に通い始めて以来、こんなこと初めて……
ましてや、昨日の今日……
何かあったのかな?
一抹の不安を抱きつつ、あたしは、仕方なく屋敷へと向かった。
「おはようございます」
「おはよう、璃子ちゃん」
意味ありげな薫さんの笑みと挨拶。
昨夜の今朝で、気恥ずかしさに襲われる。
「昨日は、ありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせました」
「ふふふっ、こちらこそ。
っで、昨夜の桜井家での和也は、どうだったかしら?」
聞かれて、昨夜の屋敷を出るシーンを思い出す。
隼人さんの言葉といい、みんな知っていたんだと思うと、『妄想列車』を走らせていた自分が、恥ずかしくなった。
「とても素敵なご挨拶をしてくださいました」
「そう、良かった。これでも、姉として、心配してたのよ」
薫さんのホッとした笑顔に、微笑みを返した。
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