◇◇ 第51章 あなたのもとへ ◇◇

8/39
前へ
/40ページ
次へ
「とっ、とんでもありません!発送荷物の集荷もまだ来ていませんし……」 「いいのよ、それぐらい私に任せて。今日は、どこかへお出かけなんでしょう?」 チラッと鞄を見ながら、薫さんがからかう。 あたしは、恥ずかしさで真っ赤に頬を染めながら、にっこりと笑った。 「もう少ししたら、時田さんが、お祖父様のご用事で会社に向かうそうなの。 だから、和也のマンションまで、璃子ちゃんを送ってくださるそうよ」 「えっ!?で、でも、それは、さすがに申し訳ないです……」 「もう、今さら遠慮なんてしないのっ」 薫さんが、クスクス笑いながら言った。 「……薫さん」 「璃子ちゃん、こういう時は素直に甘えるものよ」 薫さんが、穏やかな、そして優しい眼差しで、微笑んでいる。 「何から何まで、お心遣いありがとうございます!」 「いいのよ、璃子ちゃんは私の妹なんだから。あらっ、ちょっと気が早かったかしら?」 「そんな事はございませんよ!」 扉の影から、突如現れた房子さんから、ツッコミが飛んできた。 「あら房子さん、油断も隙も無いわねっ」 「はい、心温まる素敵なお話には、鼻が利くんです」 「まぁ、房子さんったら!」 「「「ハハハハハッ……」」」 年末の五十嵐邸に、3人の笑い声が響いた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1994人が本棚に入れています
本棚に追加