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「私は……俺は、元『男』なんだ」
言った。とうとう言ってしまった。
言えた。やっと言うことができた。
今までずっと隠してきたことを、ようやく吐き出せた。
それとも、暴露させられた、なのか。
自分でもどっちなのかよく分からない。ただ、最後の一歩は自らの意志で踏み出したように思う。
夏の風物詩である蝉の鳴き声がけたたましく聞こえる中、俺と、俺の友達五人を包む空気はとても重く、俺は背中に冷たい汗を感じた。
「ど、どういうこと?この男の子がゆっきーって、だってゆっきーは――」
「それについても、ちゃんと説明するから」
顔を青ざめさせながら呆然と呟く矢作さんに、俺は下げていた頭を上げて答えた。
その時見えた皆の顔は、『俺』という一人称を淀みなく口にした事に衝撃を受けているようだった。
深呼吸して、心を落ち着ける。
「……前に、交通事故に遭ったっていう話はしたよね?」
俺の確認するような問い掛けに、皆はバラバラに頷いた。
「その事故には、その女の子――海佳と一緒に巻き込まれたんだ」
俺は皆に語る。事故に遭った経緯、そして、俺と海佳がどうなったのかを。
「その事故で、海佳は命を落とした」
俺が守り切れなかったせいで、海佳は死んでしまった。
皆に話す傍ら、俺はその時の記憶を振り返っていた。
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