オープニング 「告白」

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ここ梅坂市は結構都会な街で、住宅地以外ならどこを見渡しても信号を三つは見付けられる。この近くは特に大通りが多いから、とっぷり夜が更けた時以外は常に一定のうるささが消えることはない。 辺りにはビルが立ち並び、視覚的にどうも寂しい。それの為か、梅坂の大通りには煉瓦造りの花壇が設置され、そこに色とりどりの花を植えることで景観を補っている。ただそれは全体的には微微たるもので、それで街の風景が良くなっているかと聞かれれは微妙な所だった。 そんな中、俺と海佳は二人並んで目の前の信号が青に変わるのを待っていた。 「信号、捕まっちゃったな」 大通りだけあって、一度赤信号に捕まると中々渡れない。 普段ならそこまで焦ることもないのだが、今回ばかりは事情が違った。 「……」 周りの目が、やけに俺達に集中しているからだ。 そりゃあ、確かに海佳はめっちゃ可愛いから注目されるのは分かる。それでも今まではそこまで他人の目を集めることなんてなかったのに。 「皆に、見られてるね」 小声で俺だけに聞こえるようにしながら海佳が呟いた。 やっぱり、俺なんかが海佳と仲良く手を繋いでいるのが気に食わないのだろうか。 「……あぁ、そうだな」 俺も同じように囁き返す。海佳はそれを恥ずかしがりつつも、満更でもなさそうに頬を緩めていた。 そしてそれは恐らく、俺も同じだった。案外、二人してニヤニヤしているのが一番注目を集めている理由なのかもしれない。 分かっていても、だらしなく表情が緩むのを止めることは出来なかった。
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