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そうして他人の視線をこそばゆくも面白く感じながら受けていると、ようやく信号が青に変わった。
落ち着かなかった俺達は青に変わった瞬間横断歩道に踏み出した。満更でなくとも、注目されるのは精神的に疲れる。逸る海佳に手を引かれながら、俺と海佳は横断歩道を渡る。
周りでは様々な車が通行する音がうるさく響いている。軽自動車の少し軽い音やバイクの変わったマフラー音。この場には色々な音が混じっている。
だから、気付かなかった。
やけに大きく聞こえるトラックの重低音が、すぐそばで鳴っていることに。
「っ!?」
気が付いた時には目前に迫っていた。どこかの車メーカーのエンブレム、ドライバーの顔までハッキリ見えた。
ここにきて、ようやく急ブレーキの音とクラクションの混ざった轟音が鳴り響く。パニックになった頭の中、確かに理解したのはこれだけだった。
―――これは、マズい。
「海佳ああぁぁぁあああっ!」
いつの間にか萎縮して止まっていた足に全力の力を込め、俺は前方に飛び出した。
もうすぐで向こうの歩道に行ける。前を行っている海佳だけなら、まだ間に合うはず。
俺の叫びを聞いて、呆然とした顔をこちらに向ける様子がスローモーションで捉えられる。この時点で俺は海佳が助かることだけを考えていた。自分の事を諦めたわけではなかったが、俺の頭は海佳が生きることだけで一杯だった。
頼む、届け―――!
繋いでいたのとは逆である右手でもって、俺は海佳の胴体を突き飛ばす。途端驚いた顔をして飛んでいく海佳を見て、俺は自然と笑みを浮かべていた。
遠慮なく突き飛ばしたからどこか怪我するかもしれないけど、あれなら大丈夫かな。まぁ、許してくれることを願うしかない。
ちょっと胸に触っちゃったかな、なんて呑気な事を考えながら。
直後、俺はとてつもない衝撃に掻き混ぜられていた。
手に感じていた温もりを思い出しつつ、俺はそっと意識を手放した。
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