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「・・・」
「俺にも言えない事なのか?」
項垂れていた明日馬は、芦屋に向き直り、今までの経緯を説明した。
「ヒカルちゃんがさらわれた!?」
「はい・・・相手は正体不明ですが、手慣れた感じで玄人でした」
「しかし救急車を使っているんだ、それなりの大きな組織かも!?」
「ですから、芦屋さんにはご迷惑を掛けたくないとー」
「馬鹿野郎!」
芦屋が怒鳴った。
「俺はヒカルちゃんの保護者で、お前の兄貴みたいなもんだぜ、水くせぇ奴だな」
芦屋がまた小突いた。
明日馬と芦屋は、兄弟のような関係らしい。
「それで、お前はヒカルちゃんを取り返しに行くと?」
「はい」明日馬は短く答えた。
「それなら俺も連れて行け!」
「・・・嫌だと言っても無駄ですよね?」
「わかってるじゃねえか!
なあに、俺も弁護士だ、相手を殴っても自分で弁護するさ」
芦屋は豪快に笑った。
真鍋が車で待っていると、明日馬と芦屋が雑居ビルから降りて来た。
剣呑な事に、明日馬は日本刀を背負っている。
「弁護士の芦屋さんだ」
明日馬が短く紹介した。
「!?」
再び混乱する真鍋。黒い背広を着た芦屋の見た目は、暴力的だから無理もない。
「芦屋だ。明日馬の兄貴みたいなもんだ」
これまた意味不明の説明をして、車の助手席に乗り込んだ。
「申し訳ないが、俺も一緒に連れて行け!」
命令口調だ。
真鍋がビビりながら車を発進させた。
「申し遅れました、自分は真鍋です」
真鍋が、助手席の芦屋に挨拶する。
明日馬は後部座席で、短刀型手裏剣の刃を研いでいる。
「明日馬から短い説明を受けたが、あんたの、いや、あんたらの正体が解らねぇ」
「自分は件を研究している者です」
「件・・・!?」
芦屋の眉間に皺が寄る。
「俺のお袋が関西出身だったから、件という妖怪の話しは聞いた事あるが、件とは一体何だ?」
芦屋が訊いた。
「件とは、古来から伝わる半人半牛の怪物ですね。
歴史的な凶事や災害、戦争の前兆として生まれ、その予言をすると伝えられています」
真鍋がタバコを取り出し、一服吸い、
「その姿が、昔は人の頭に牛の身体でした。
近年になると、牛の頭に人の身体だという。もっとも、これは牛女だとか。
要は都市伝説の一種ですね」
「しかし、俺は目の前でヒカルが牛に変わるのを見た・・・」
明日馬が苦悶の表情で言う。
真鍋がバックミラーで、チラリと明日馬の様子を見る。
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