件の如し

「件の如しー２ 件鬼ノ章」

「ヒカル・・・さんですか、女の方だとすると、頭が牛で身体が人の形状ですね」
「・・・そうだ」
「我々の研究で、件の形状分類があるのですが、
メスの場合、牛頭人身の外観形状で、α（アルファ）タイプと呼ばれています。
知能が低く、２～３年の寿命との統計が出ています。
メスなのに、牡牛を象徴する角が生えるのは奇妙ですが。
オスの場合、人頭牛身の外観形状で、β（ベータ）タイプと呼ばれています。
知能が高いのですが、寿命が短く、持って１年です。
希に、オスで牛頭人身のδ（デルタ）タイプが過去の文献にありますね」
ヒカルをメスと呼ばれて、明日馬はムッとする。
研究者にありがちな、人の感情を考えない、ぞんざいな言い方だ。
「α（アルファ）、β（ベータ）に共通するのは、言い伝えの通り予言を成す事です。
その予言も、同じ言葉、同じ内容で予言をするのが特徴ですね。
数あるサンプルを見ましたが、予言が外れた事は皆無でした」
「待ってくれ、数あるサンプルと言ったか？」
「施設では、20体以上の件を保有していました」
「そんなに！？」
芦屋が唸る。

「これは日本だけの数です。世界規模だと数百は下りませんね」
「世界だと！？件は日本だけの・・・怪物ではないのか？」
「違います。まぁ、件の存在は秘匿されていますからね。
それが漏れても、『国会件出現事件』のように偽情報で隠蔽されますから」
真鍋が運転する車は、どんどん山深くに走って行く。
「山城奈津代の件だな。
表向きは急病で入院と報道されたが、どうも報道管制が掛かっているらしいな。
それも党の上層部から、マスコミに圧力が掛かっているとの噂だ」
芦屋が憮然と言う。
「はい、我々も実態を知らないのですが、件を強引な手段で攫っているのです。
これは憶測なのですが、どうも大きな国際的組織が関与しているらしいです。
研究施設も、その組織が運営していると、仲間の研究者が話していました」
「これは政治家付きの弁護士に聞いた話で、あくまで憶測なんだが・・・
秘密結社のフル・メディソンが関与していると噂されているらしい」
「フル・メディソン？」
明日馬が尋ねた。

フル・メディソンとは、
15世紀の建築家兼医者兼錬金術士フルカネルが興した秘密結社だ。
科学者と医療者のギルドであり、友愛結社である。
フル・メディソンは、フルカネルの医学（Medicine）の略。