「件の如しー2 件鬼ノ章」

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「それで、俺に白羽の矢が立ったのか」 明日馬がぶっきら棒に言った。 真鍋の運転する車が、山道の高い所まで登って停まった。 「この先に施設があります。 通称『牧場』と呼ばれている施設です。 大人数だと入れないので、芦屋さんは此処に残ってもらえますか?」 真鍋が芦屋に懇願した。 「そうですね、芦屋さんは問題だらけだが弁護士だ。 俺が真鍋さんと潜入しますから」 明日馬も同調した。 「わかったよ!此処で見張り番をしてるさ。 明日馬よ、必ずヒカルちゃんを救出しろよ!」 「・・・わかりました」 芦屋の真摯な眼を見て、明日馬が頷く。 芦屋を降ろし、後部座席の空洞に明日馬が隠れた。 車はやがて、真鍋が『牧場』と呼んだ施設に入った。 守衛所でも、後部座席に隠れている明日馬は見つからず、巧く潜入出来たようだ。 先に真鍋が施設に入った。 しばらくして施設の窓が開き、真鍋が明日馬を呼び寄せる。 「施設の監視カメラをハッキングして無効にしました。 今日は、組織のお偉方が東京に来ているので、施設は警備が手薄です。 今がチャンスです!」 明日馬を招き入れ、真鍋は地下に向かった。 そこは異様な空間だった。 独房の如き部屋が無数に並び、件の呻き声が幾つもこだまして、亡者の怨嗟の声に聴こえる。 独房には、無数の件が居た。 牛頭人身のメスの件。人頭牛身のオスの件。 皆、むき出しの裸で独房に入れられていた。 その数、およそ20体か。 明日馬はヒカルを捜した。指輪が目印になる筈だ。 居た! 一番奥の独房に、指輪をしたメスの件が横たわっていた。 その指には、明日馬が渡した指輪が光っていた。 「ヒカル!」 独房の鍵を叩き壊し、件と化したヒカルの腕を引いた。 裸のヒカルは、黙って従っている。 「ヒカルが居た! 真鍋さん、あんたの息子さんは居たか?」 明日馬が問い質すが、真鍋は部屋の奥で何かを見つめ、黙って立ち尽くしている。 真鍋が見つめている先を見ると、そこに少年の顔があった。 「!?」 顔だけが宙に浮き、その下の身体がそこには無かった。 顔の下には、ただ肉塊が散乱していた。 肌色の蛇のように、のたくっているのは腸か。 内蔵が腑分けされ、取り出された心臓だけが容器の中で動いていた。 少年の顔は固定具で挟まれ、後ろの頭蓋が開けられ、大脳に幾つもの電極が差し込まれていた。 無残であった。 「アキラ!うあああぁ!」
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