「件の如しー2 件鬼ノ章」

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真鍋が絶叫した。 その声でバレたのか、小銃を持った警備員が飛び込んで来た。 「動くな!」 明日馬が飛燕の如く、警備員に手裏剣を打った。 手裏剣は見事、警備員の腕と脚に刺さる。 「がっ!」 呻き、倒れる警備員。 明日馬は幼い頃、剣を握ると同時に、手裏剣の修行を開始した。 昔の剣術家は、武者修行の旅で食料調達する時に、手裏剣で獲物を仕留めていた。 手裏剣術が下手な者は、修行の旅を断念せざるを得ないのだという。 だから『摩利支念流』は、手裏剣術の習得も大事にしていた。 明日馬は、すでに達人の域だった。 「逃げるぞ、真鍋さん!」 放心している真鍋の腕を掴み、ヒカルを連れ、懸命に脱出路に向かう。 その真鍋の腕が、尋常でない力で持って行かれた。 同時に、激しい衝突音が響く。 明日馬がよろけ、掴んでいる真鍋の腕を見た。 腕の先が無かった。 肩があるべき場所から先が無く、鮮血が滴り落ちていた。 真鍋が居た場所の壁に穴が空き、洞穴のように暗い外が見えた。 壁の破壊穴には、トマトを潰したが如く、真っ赤な血がしぶいている。 真鍋の腕を置き、明日馬は背中の日本刀を抜いて、穴から外に出た。 外には硬質の気が充満していた。 明日馬は、そのような気を感じた事が無かった。 これは人間の気配ではない。人外の気だ。 何かが、森の暗闇に居る。 獰猛な肉食獣が闇に潜んでいるように、真鍋を殺した敵が暗闇に居る。 正眼に構えた刀に、雲から顔を覗かせた月の光が、ぎらりと反射する。 その光に誘き出されたように、森の暗闇から紅く獣の眼が光った。 「GuRuuu・・・」 獣が低く吠えた。 月が晴れ、月光を浴びて、獣の全身が見えた。 異怪であった。 頭には雄々しく巨きな角があり、 獰猛な光を湛える眼は血の涙を流し、 牡牛の如き顔は怒りに震え、 肩が異様に広く、 身体は獣毛に覆われた、 伝説の獣人ミノタウロスが其処に居た。 身の丈は、優に2m50はあるだろう。 足元には、肉塊と化した真鍋が横たわっている。 「GuGaaaーー!」 ミノタウロスが吼えた! 明日馬は瞬時に判断する。 あの巨体では、手裏剣で足止め出来ない。 刀で狙うは脚かー そう考えた途端、ミノタウロスが脚を引いた。 「!?」 考えが読まれたか!? 「我がミノタウロスは、敵の攻撃を先読みするのだ。 お前の攻撃は通用しない」 慇懃な男の声が響いた。
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