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肉を切り骨を断つ交差法で、ミノタウロスの弱点を斬る。
狙うはー
明日馬は、ミノタウロスの喉に意識を集中した。
「GuGaaaーー!」
ミノタウロスが吼え、明日馬に向かって突進して来た。
明日馬は心を空にして、身体の反射のみでミノタウロスの角を躱し、
斬っー
喉を狙った筈の剣先が、ミノタウロスの左目を貫いていた。
明日馬は、ミノタウロスが攻撃して来た瞬間、突きの軌道を喉から左目に変えたのだ。
いかな殺気を読むミノタウロスといえど、攻撃の瞬間まで防御に意識が向かない。
刹那ーそれより短い、まさに意識の閃きに等しい時間に、繰り出した突きだった。
ー恐るべし『摩利支念流』
激痛で転げ回るミノタウロス。
しかし、明日馬もミノタウロスの攻撃を全部は躱せず、左胸を浅くえぐられていた。
おそらく、肋骨が何本か折れているだろう。
今の内に逃げようと、ヒカルを抱き起こす明日馬。
「待て、Ω(オメガ)は渡さぬ!」
アエーシュマが、銃を構えて叫んだ。
咄嗟にヒカルを庇う明日馬だが、
「うあああぁー」
ヒカルが逆に、明日馬に覆い被った。
バスッ!
銃声が轟き、ヒカルの頭が血飛沫をあげた。
「ヒカルー!」
慟哭する明日馬。
崩れ落ちるヒカルの眼に、血の涙が流れた。
「ちぃ」
誤ってヒカルを撃ち、舌打ちをするアエーシュマ。
「GuGaaaーー!」
ミノタウロスの咆哮が轟く。
痛みで錯乱したミノタウロスが身体を起こし、明日馬を突き上げた。
宙に舞う明日馬が見たのは、崩れ落ちたヒカルの姿だった。
「ヒカルゥー!」
明日馬はそのまま、深い谷底に落ちて行った。
ちろちろと小川が流れる音で、明日馬は意識が蘇った。
手には、まだ刀が握られていた。
胸に激痛が走る。
「くぅっ」
呻き声を漏らした明日馬は、幾つかの人影に囲まれているのに気が付いた。
顔を上げ見ると、3名の迷彩服を着た男達が、小銃を持って構えている。
その後ろから、一人の女が現れた。
黒いジャケットに、赤いシャツと、黒のタイトスカート。
長い黒髪をポニーテールにした、三十路と覚しき女が近寄る。
「松田 明日馬さんですね?」
女が訊いた。
「あたしは牛頭教団の振鷲(ふるわし)と申します。
明日馬さん、貴方の身柄を拘束致します」
振鷲と名乗った女が、明日馬に向かって艶然と微笑んだ。
「件の如しー3 件呪ノ章」へ続くー
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