「件の如しー3 件呪ノ章」

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牛頭教団の資金は、相当に潤沢なのだろうか。このフィリピンの島も、牛頭教団の所有地だ。 「決行の日が近くなってきたので、明日馬君には事の詳細を説明するわ」 「お願いする」 明日馬が促し、いかなる時も手放さない刀を横に置いた。 「件(くだん)と敵の正体、どちらを先に知りたい?」 「・・・件だな」 「わかったわ、明日馬君には、まず件とは如何なるものか説明するわ。 件について、明日馬君はどこまでご存知?」 「真鍋さんに聞いたのは、件という半牛半人の存在と、予言を成すという事」 「『Kudan(クダン)細胞』は?」 「それも聞いたな。無限増殖性をもつ不死化細胞だとか・・・」 「そうね、いいわ。 まず、件が急速な変貌を遂げるメカニズムの推測だけど」 明日馬は、牛に変貌したヒカルを思い出し、ぞくりと身を震わせた。 「まず、人間と件との遺伝子の差異は98%と判明しているわ。 でもこれは、チンパンジーと人間とのゲノムの差と変わらないの。 では、チンパンジーと人間を分けている差、それは心とか意識よね。 この心と意識に関わる問題と、件の変貌に関わる問題に、我々は一つの仮説を考えているのよ」 振鷲は一呼吸おき、話を続けた。 「その仮説は、細胞中にあるマイクロチューブルに答えがあるというものよ」 マイクロチューブルとは、細胞中に見出される直径約 25 nm の管状の構造のタンパク質からなる細胞骨格の一種。 人間の脳をニューロン単位で見ると、機械的に動いているのではなく、量子力学的な『ゆらぎ効果』を用いることで「判断」していることが解っている。 その量子力学的な振る舞いを担っているのが、マイクロチューブルだと、スチュワート・ハメロフが提唱し、ロジャー・ペンローズが発表した。 「それを量子脳理論と呼んでいるわ。 例えば、脳のニューロン網を模した人工知能を創ったとしても、人間のような意識は生まれないと言われてる。 マイクロチューブルの量子力学的な構造から、心や意識が生まれるという訳。 でも、マイクロチューブルは全身の細胞に存在するわ。 何故、脳にあるマイクロチューブルだけに意識が生まれるのか?」 振鷲は、量子脳理論より大胆な仮説を説明した。 例えば、テレビやラジオに映像や音声を作る機能はない。 別の場所から発信された電波を、テレビやラジオが受信して、それが映像や音声になるのだ。
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