「件の如しー3 件呪ノ章」

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脳で意識が生まれるのではなく、脳は単なる中継器で、心や意識は別の場所から発信されているのではないか? その中継器のメカニズムに、細胞中のマイクロチューブルが量子的な働きをしているという仮説だ。 「どこ・・・いや、何から発信されているんだ?神か?」 「神が居るなら、世界にこれ程の悲劇は起こらないわ」 「教団の女教主とは思えないセリフだな」 「リアリストなのよ」 振鷲は微笑んだ。 「件が変貌するのは、受信されるデーターが膨大で、それが全身のマイクロチューブルに作用し、遺伝子に急激な変異を起こしているのかもしれない。 ヒトゲノムの97%を占めるジャンクDNAに、件に変貌させる特殊遺伝子があるとも言われてるの。 明日馬君、あなた人間は不完全な存在だと、前に言っていたわね?」 「ああ、俺がいい例だ。 命より大事なヒカルを護れず死なせ、あれ程嫌った刀を手放せなかった。 こんな矛盾のある存在を、不完全と言わず何と言う?」 明日馬は、横に立て掛けてある刀を握り、堅い声で言った。 「確かに人間は不完全な存在だわ。 人間の心が不完全だから、争いが絶えず、いつまでも不幸が無くならない。 人間のマイクロチューブルの機構が不完全だから、受信されるデーターが不完全に再現され、その結果人それぞれに心や意識の違いが生じる。 でも、件は違うわ。 件のマイクロチューブルの構造は、人間のそれより、量子計算を阻害する不純物が少ないのよ」 振鷲が眼を泳がせ、何かを思い出す。 「人間にもサヴァン症候群というものがあるわ」 「サヴァン症候群?」 「知的障害者のごく少数の者が、特定の分野に限って、優れた能力を発揮する症状よ。 例えば、驚異的な暗算能力だったり、膨大な素数の暗唱だったり、無限のカレンダー計算があるわ。 このような計算能力があるのに、一桁の掛け算も出来ない者がサヴァンよ。 彼らは頭の中に数字が浮かぶと言うわ。まるでメッセージのように。 件も同じよ。 件は、同じ意識で、同じメッセージを共有しているわ」 「同じメッセージ?」 「そう、予言というメッセージ。 そのメッセージが、何処から発信されているのかは判らないわ。 オカルティストは、異次元にあるとされる記録保管庫「アカシックレコード」にアクセスしていると言うわ。 量子論者は、その答えをプラトン的世界に求めているの」 「プラトン的世界?」
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