「件の如しー1 件変ノ章」

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人間の心はどうしようもなく不完全だという事だった。 そんな折、自殺サークルを名乗り、希望者を騙し、金品を巻き上げているグループを潰した。 その自殺サークルの希望者の中に、両親を亡くした徳田 ヒカルがいた。 衝撃の出会いだった。 出会った瞬間、お互いに惹かれ、恋に落ちた。 死が鎮座していた心の空洞を埋めるように、貪るように惹かれ合い、愛し合った。 明日馬は、この女なら一緒に生きていけると思った。 だから、殺伐な芦屋の仕事を辞め、明日馬は宅配の仕事に就いた。 なるべく人と接する時間の少ない仕事という理由だ。 今日それを告白しよう、と待ち合わせをしていた。 手には、この日の為のプレゼントが握られている。 明日馬が、公園の入口に人影を見つける。 待ち合わせをしていた徳田 ヒカルが、遠くから駆け寄ってくる。 腰まである長い黒髪、凛とした美しさがあるが、優しい目元が何処か儚げな少女だった。 少女といってもヒカルは19歳だが、擦れていない雰囲気が幼く見えてしまうようだ。 徳田 ヒカルは、実業家の両親の家に一人娘として生を受けた。 その恵まれた生活も、ヒカルが16歳の時に終焉を迎える。 父の事業が失敗し、多額の負債を抱えて破綻した。 連日詰め寄る債権者達。 美貌に恵まれたヒカルは、筋の悪い債権者に身体を売れと迫られた。 ヒカルはすぐに心を病んだ。 両親も限界だった。 両親はある夜、家にガソリンをまき、ヒカルもろとも焼身自殺しようとした。 異変に気付いたヒカルは、二階の窓から屋外に逃げた。 その時には、すでに家中に火がまわり、両親を助けるのは無理だった。 焼け跡から両親の焼死体が出た。 ヒカルは己を責めた。 あの時、一緒に死ねなかったと。 自殺を考え、ふと覗いた自殺サークルで松田 明日馬という青年と出会った。 まさに運命の出会いだった。 呪われた自分を救ってくれるのはこの人だと思った。 その明日馬と公園で待ち合わせをしている。 今日一緒に生活しよう、と言うつもりだった。 それに、明日馬に大事な告白があるのだ。 それを想うと、ヒカルの胸の動悸は激しくなった。 明日馬は、駆け寄ってくる徳田 ヒカルに違和感を憶えた。 ヒカルの姿に別の映像が映る。 『先読み』か!? 相手がどのように攻撃してくるのか、それを先に察知するのが『先読み』だ。 それが明日馬にはイメージとして視える時がある。
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