17人が本棚に入れています
本棚に追加
相手が動き出す前に、そのイメージが視え、それを追うように相手が動くー
実際は、相手の攻撃パターンを想定して『後の先』を取るのだが、それをショートカットしてイメージのみが視える場合がある。
そういえば父、拓馬が得意としていた、と明日馬は想い出す。
歩いている途中で、頭上に掌を広げ、数瞬後に樹の枝が落ちて来て、それを掌で掴んだのには驚いた。
その『先読み』が、ヒカルの身に起こる異変を察知したというのか!?
「ごめんなさい、バイトで遅れちゃって」
ヒカルは汗をかいて駆け寄って来た。
「いいんだ、仕事が早く終わったから海を観ていたよ」
ヒカルを迎えながら、周囲に気を配る。怪しい者は居なかった。
「きゃっ」
ヒカルがつまづき、転びそうになったのを明日馬が抱き留めた。
「ごめんなさい、」
「大丈夫か」
「うん、平気」
ヒカルの肩を抱き、髪の匂いを嗅いだ明日馬は、しばし安堵する。
しかし、『先読み』で視たのは、もっと禍々しいモノだった・・・
「明日馬、わたし、大事なことを言わないとー」
「ヒカル、先に俺に喋らせてくれ」
明日馬は、嫌なイメージを払拭した。
そう、大事な告白があるんだ。
「ヒカル聞いてくれ、俺達付き合い初めてまだ短いけど、ヒカル無しでは生きていけない。
だから、ヒカルさえ良ければ、俺達一緒になろう!」
そう言って、明日馬はヒカルに指輪を差し出した。
ヒカルはしばらく呆然として、やおら顔をくしゃと崩した。
「・・・ありがとう」
ヒカルが眼に大粒の涙を溜めながら、震える手で指輪を受け取った。
指輪を左手の薬指にはめ、腹に掌をあてて号泣した。
両親を焼身自殺で亡くし、自らも自殺を考えた私が、こんなに幸せでいいの!?
ヒカルは明日馬の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らして泣いた。
幸福感にまどろみながら、明日馬は眼を閉じていた。
突如ー
明日馬は、異様な気配が膨れ上がるのを感じた。
その気配は、目の前のヒカルの内部から感じるものだった。
「ぬぅ!」
ヒカルが苦しげな呻き声をあげ、身体を震わせていた。
「ぐぅうぅ・・・」
くぐもった声が洩れる。
明日馬はヒカルを抱きしめながら、何か圧倒的なエネルギーを有する塊が這い上がってくるのを感じた。
何だコレは!?
ヒカルの顔が前髪に隠れて見えない。
しかし、肩を震わせ、苦しげに身を捩るヒカルの気配が、徐々に変貌していくのに恐怖を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!