「件の如しー1 件変ノ章」

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相手が動き出す前に、そのイメージが視え、それを追うように相手が動くー 実際は、相手の攻撃パターンを想定して『後の先』を取るのだが、それをショートカットしてイメージのみが視える場合がある。 そういえば父、拓馬が得意としていた、と明日馬は想い出す。 歩いている途中で、頭上に掌を広げ、数瞬後に樹の枝が落ちて来て、それを掌で掴んだのには驚いた。 その『先読み』が、ヒカルの身に起こる異変を察知したというのか!? 「ごめんなさい、バイトで遅れちゃって」 ヒカルは汗をかいて駆け寄って来た。 「いいんだ、仕事が早く終わったから海を観ていたよ」 ヒカルを迎えながら、周囲に気を配る。怪しい者は居なかった。 「きゃっ」 ヒカルがつまづき、転びそうになったのを明日馬が抱き留めた。 「ごめんなさい、」 「大丈夫か」 「うん、平気」 ヒカルの肩を抱き、髪の匂いを嗅いだ明日馬は、しばし安堵する。 しかし、『先読み』で視たのは、もっと禍々しいモノだった・・・ 「明日馬、わたし、大事なことを言わないとー」 「ヒカル、先に俺に喋らせてくれ」 明日馬は、嫌なイメージを払拭した。 そう、大事な告白があるんだ。 「ヒカル聞いてくれ、俺達付き合い初めてまだ短いけど、ヒカル無しでは生きていけない。 だから、ヒカルさえ良ければ、俺達一緒になろう!」 そう言って、明日馬はヒカルに指輪を差し出した。 ヒカルはしばらく呆然として、やおら顔をくしゃと崩した。 「・・・ありがとう」 ヒカルが眼に大粒の涙を溜めながら、震える手で指輪を受け取った。 指輪を左手の薬指にはめ、腹に掌をあてて号泣した。 両親を焼身自殺で亡くし、自らも自殺を考えた私が、こんなに幸せでいいの!? ヒカルは明日馬の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らして泣いた。 幸福感にまどろみながら、明日馬は眼を閉じていた。 突如ー 明日馬は、異様な気配が膨れ上がるのを感じた。 その気配は、目の前のヒカルの内部から感じるものだった。 「ぬぅ!」 ヒカルが苦しげな呻き声をあげ、身体を震わせていた。 「ぐぅうぅ・・・」 くぐもった声が洩れる。 明日馬はヒカルを抱きしめながら、何か圧倒的なエネルギーを有する塊が這い上がってくるのを感じた。 何だコレは!? ヒカルの顔が前髪に隠れて見えない。 しかし、肩を震わせ、苦しげに身を捩るヒカルの気配が、徐々に変貌していくのに恐怖を感じた。
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