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隊員を『目付け』で見る。
『目付け』とは、敵の全体を観察し、心理や動きを把握する方法だ。
敵の呼吸、眼の動き、筋肉の付き方、利き腕、重心の位置、靴の形状等を観察した。
そして、身の周りの道具を見た。
明日馬は決断した。
「この救急車は何処に向かっているんだい?」
拳ダコの隊員に話しかける。
「・・・」
「おい、何故サイレンを鳴らさず走っているだ?」
わざと伝法な言い方で、拳ダコを挑発した。
隊員は、お互いに目配りをした。
どうも困った事態になった、
隊員が眼で語り、何事か了解し頷いた。
「ややこしい事にはしたくないんだよ」
今までの口調が変わり、拳ダコが凄んだ。
「大人しく付いてくりゃ良かったものを、その綺麗な顔を傷付けたくないだろう?」
「・・・車を停めてもらおうか」
明日馬は静かに言った。
救急車は、山間の雑木林に入って、暗い空き地に停まった。
もう外は、闇が深い夜になっていた。
拳ダコが降り、明日馬が続いた。
「おい、あんまり派手にやるなよ。
この前もやり過ぎて、被験者の家族を殴り殺したろ」
拳銃の隊員が諌めるが、明日馬を心配している訳ではなかった。目が笑っている。
「へへ、こんな優男なら犯してやりたいが、それはお前を殴り殺してから、女で我慢するよ」
拳ダコが下卑た笑いを浮かべた。
良かったー
明日馬は思った。
ーこんな屑なら、何の躊躇もいらない。
案の定、拳ダコが拳を持ち上げ、空手の型に構えた。
明日馬は怖気づいたフリをして、林の奥に後退する。
拳銃の死角に行かなければ。
先に拳ダコを挑発して拳銃と分断する、ここまでは明日馬の策通りだ。
薄笑いを浮かべ追いかけて来た拳ダコに、明日馬は樹を背中に立ち止まった。
「観念しな!」
拳ダコが拳を構えた。
明日馬の顔に、拳ダコの正拳がめり込むと思った矢先、明日馬の右腕が霞んで消えたように見えた。
刹那、
パッシィィ!
何かが拳ダコの両眼を激しく打った。
「ぐぅ!?」
呻き、うずくまる拳ダコ。
明日馬の右手には、いつの間にかドレーンチューブが握られていた。
救急車から盗んだチューブを隠し持ち、収縮のあるのを利用し、抜き打ちに眼を攻撃したのだ。
闘いの最中に、敵の眼を狙い、それに命中させるのは、なかなか出来るものではない。
明日馬の飛燕の如き抜き打ちを持って、初めて可能な技であった。
とどめとばかりに踏み込んだ瞬間、
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