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ー8年前ー
三日月が真夏の夜空に輝いている。
今夜は連日の猛暑が嘘のように涼しい。
夜の散歩にこれほど望ましい日はない。
そう思い、寝ている者を起こさないように家を出た。
程良い月の明るさに目を細め、大きく腕を伸ばす。
「良い月夜だね。」
突然声を掛けられ反射的に警戒するも、声の主が思い当たり、振り返る。
「やぁ。また1人で抜け出して散歩?」
「…別にお前には関係ないだろ。」
自分1人だけという空間を邪魔され、若干不機嫌になる。
その根源である“お前”はお構いなしとでもいうように、俺も散歩しよ~ と言って、後を着いてくる。
「夜の散歩は1人で行くのが妥当と思わないか?」
「たまには2人も楽しいって。」
「…僕は、帰れ って言ってるんだよ。」
「酷いなぁ~。ここまで歩かせといて、それはないんじゃない?」
「お前が勝手に着いてきたんだろ!」
ヘラヘラと笑う姿に怒りつつも、どこか穏やかな空気に安らぎを覚える。
「ねぇ、月は死者の国だって知ってた?」
「確か、何処かの国の伝承だったか。それがどうかしたのか?」
「いや、大したことじゃないんだけどさ。もしそうなら、月が狂気を出しているってのは、そこにいる死者達の生きている者への嫉妬や切望の表れなのかなぁ って。」
「死んでも生に縋りつこうとするなんて、哀れで愚かなだけだ。」
そう言えば、手厳しいねぇ~ と苦笑された。
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