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「今の電話……私について何か言われたんですよね?上谷さんの目の動きや汗。喉が渇き声が裏返る。動揺しやすい人の典型的なパターンです」
「さ、笹原さん……?」
明らかに今さっきまで話していた笹原さんとは声のトーンが変わり、口調は柔和なままだが、雰囲気がまるで別人のようであった。
「私は最初に忠告しておいたはずなのですが、どうにも上谷さんは楽観主義者といいますか……本当に貴方は自分の立場を理解しているんでしょうか?」
この人は俺の知っている笹原さんではない。
そう拒絶する自分がおり、だったら目の前に立つこの人は一体誰なんだ?
俺の知っている笹原さんはもっと優しく笑い、気遣いが出来て……なによりこんなに冷たい声色で喋ることはなかったはずだ。
そして驚きのあまり呆然と見つめる事しか出来ない俺を嘲笑うかのように、笹原さんはスッと俺の目の前まで歩み寄ってきた。
「あと数時間は夢の中で仲良く出来るかと思いましたが、どうやら時間切れのようですね。とは言っても……これからはもっと良い関係になれるはずです」
『もちろん次は現実ですので、心配いりません』
そう言って笹原さんは……。
俺の顔に自分の顔を近付け、逃げなければいけないと頭では理解しているつもりなのだが、恐怖からか体が金縛りを受けているくらいに動けなくなっていた。
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