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しかも俺とこの人は初対面のはずなのに、向こうはかなり物怖じしない態度で話し、逆に俺はそれが怖くて今すぐ開放してもらいたい。
「そんなに構えなくてもいいじゃない。どうせまた会うことはないんだし、軽い気持ちでお話ししましょうよ」
「俺にはその軽さが怖いんですよ……それより本当に何の用ですか。道が分からないんだったらこのまま真っ直ぐ歩けば交番に出ますから、そこで訊いてください」
内心ではどうか只の道に迷ったお姉さんであってほしいと願っていたが、女性はマスクをしていても分かるような悪い笑みを浮かべた。
「そういえばさっき暇なのは否定しないって言ってたわよね?そんなあなたに頼みが……」
そこまで女性が言い掛けたところで、俺はその先を聞く前にダッシュで走り去ろうと勢いよくターンしたが……。
「目の前で困ってる女の子がいるのに逃げようとするなんて、なかなかいい根性してるのね。あなた?」
どうやら俺の行動は先読みされていたようで、女性とは思えないほどの力で俺の襟首を掴んでいた。
「い、いや……本当に勘弁してください。さっきは暇とか言いましたけど、実は今からバイトの面接に行かなくちゃいけないんで」
これが証拠ですと言わんばかりに俺はコンビニで貰った紙を女性に見せると、女性の笑みはますます悪いものになった。
「ビンゴね。やっぱり私の目に狂いはなかったわ。ちょうどあなたが暇そうだったから、簡単なバイトを頼もうとしてたのよ」
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