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「うまい。」
「これも、うまい。」
「ウマい。」
部長ってば、うまいしか言わないんだから笑えてきてしまう。
私の笑った顔を見て、やっと部長がウマい以外を口にした。
「いいな…。ゆいが居て、料理を作って、一緒に食べる。…ゆいがいるだけで俺の家じゃないみたいだ。」
そう言いながら、グラスに生けた小さな花に触れる。
「誕生日を祝うなんて…どれくらいぶりかな…。」
「いつまでお祝いしてました?私なんていまだに誕生日には実家に呼ばれます。普通は高校生くらいですよね?」
「……最後にしたのは…小学校の二年生くらいだったかな。」
「…え…?」
部長は私を見て静かに笑う。
「…小学校二年の時に母親が亡くなって、それからは親父が育ててくれたが、その親父も大学の時に亡くなった。母親が亡くなってからは誕生日なんて祝うこともなかったしな。」
「………。」
何も言えずにいる私に優しく笑って部長は続ける。
「幸い、祖父の代から不動産業が当たってたから金には困らなかったけど。親父は仕事ばっかだったし、いつも姉と二人きりだった。」
あ、お姉さん……美月さん。
「…あの頃から家なんて寂しいだけだったし、帰りたいなんてあまり思わなかった。…今だって帰って来て寝るだけだ。」
私を見つめる。
「…でも。こんな風にゆいがいてくれたら、帰りたくもなるんだろうな。」
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