恋人

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「失礼します。」 月曜の始業から経理室に入ってきたのは営業部の…あ、越石さん。 「おはようございます。」 爽やかな挨拶にみんなで応える。 「おはようございます。」 「池口さんはいらっしゃいますか?」 「すみません。少し席を外してますけど、どうされました?」 「先週頂いた資料で、一昨年の分も補足でお願いしたいと思いまして。」 「それなら池口さんに伝えておきますね。」 私が言うと、越石さんは少し迷っている様子。 「…室井さんにお願いしちゃダメですか?」 「…わ、私ですか?…それはかまいませんけど…、前回池口さんにお願いしてるなら、池口さんに頼んだ方が早いと思いますよ。」 「…そ、そうですよね。すみません。」 「急いでるなら、私が資料だけ取りに行ってきますよ。」 「取りに行く?」 「一昨年のっていうと、書類はほとんど書庫に移してあるんです。」 「…すみません。手間掛けさせちゃって。」 「大丈夫ですよ。整理してありますからすぐに見つかります。」 「そうですか?…じゃあ、S社の分、お願いします。」 「わかりました。」 私は部長の席に行き、書庫の鍵を借りる。 鍵を借りる時、部長が意味ありげに私を見たけれど… …何が言いたいのかはわからなかった。 …なんだろう? 「…行ってきます。」 私が事務所を出ると越石さんも続いた。 書庫は一階下の営業部のフロアにある。 「…僕も書庫って入れるんですか?」 「大丈夫ですよ。総務・経理と営業部は書庫を共有してます。一部総務・経理で、個人情報や給与に関わる資料は別に鍵が必要になってます。」 「…一緒に行ってもいいですか?」 「どうぞ。一度見ておくといいですよ。」
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