恋人

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書庫に着くと鍵を開けて中に入る。 書庫は小さな小窓があるだけで、昼間でも電気を付けないと暗い。 「営業部はそちらの方を。私たちはこちらを使用してます。」 私が中を簡単に案内しながら、目当ての書類を探す。書類はすぐに見つかったけれど、一番上の棚にあった。 私は脚立を運んでくる。 「え…?上の方ですか?僕が取りますよ。」 「大丈夫だと思うけど…。」 私が脚立に足を掛けようとすると越石さんが私を止めた。 「待って下さい。…僕の前で脚立に乗られると、ちょっと…。」 …あ、そうか。 「…ごめんなさい。お願いします。その上のあの段ボールです。」 一度段ボールを下ろしてもらって、書類を出し、また段ボールを戻してもらう。 「ありがとうございます。越石さんも背が高くていいですね。」 「…今、誰かを頭に思い描いてました?」 「…え?」 「越石さんも。"も"って。」 …鋭い。 私は一昨日、部長の家のキッチンで上の棚からお鍋を下ろす部長を思い出していた。 「…特に…意味はないんです。」 私は小さく笑ってごまかした。
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