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「それに、僕のこと、さっきからさん付けで呼んでますけど、僕おもいっきり年下ですし。」
「…あ、そうかな。ごめんなさい。男の人のことはみんなさん付けで呼んでるから、私は違和感ないんだけど。嫌かな?」
「…いえ。僕のこと、さん付けなんかで呼んでくれる人いないですから、なんかうれしいです。営業でもみんな子供扱いですし。室井さんは…僕のこと…男って、思ってくれたってことなのかな?」
「…ん?…なんというか、普通に男性だけど?」
なんだか、よくわからない。
だけど、越石さんが笑う。
「室井さんて、営業のみんなが噂してる通りの人ですね。」
え、どんな噂?
「…男と二人きりでこんなところにいるのは危ないかもしれませんよ。」
言葉とは裏腹に越石さんはにっこり笑う。
「そ、そろそろ…出ましょうか。」
私は言葉に困って、出口に向かう。
私がドアノブに手を掛けると、越石さんが私の手に自分の手を重ねた。
え?
手を引っ込めようとしたけれど、意外に強く押さえられててそれが出来ない。
「またゆっくりお話ししたいです。資料よろしくお願いします。」
越石さんが私のすぐ後ろからそう言うと、私の手の上からドアノブを回し、書庫を出て行った。
…いったい何なんだろう。
経理室に戻ると、池口さんに書類を渡し、部長に鍵を返す。
「…すぐにみつかったか?」
部長はそれだけ言い、
「…はい。」
私もそれだけを答えた。
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