恋人

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ゆいのことが気になるが、通常の業務をこなさなければならない。 電話に応対し、人に呼ばれ、書類を作成する。 ゆいも相変わらず、バタバタしながら仕事をこなしている。 昼休み。 池口が事務所を出て行き、市川が室井を誘っているようだが、構わずゆいに声を掛ける。 「室井くん、ちょっといいか。」 「…はい。琴ちゃん、先に行ってて。」 市川が出て行くのを確認して切り出す。 「…何が言いたいかわかるよな?」 「…え?」 「…朝のことだ。何かあったんだろ?越石は書庫まで一緒に行ったのか?」 「…はい。行きました。…まだ書庫に入ったことがないようで、見たいと言ってましたし…。」 俺はここまで聞いて、また苛立ち始めていた。 「…で、まさか、襲われたのか?」 「そんなこと、されてません!ただ…。」 「ただ、何だ?」 自分でも言い方がきつくなるのがわかったが、早く聞きたくてイライラしてしまう。 ゆいはその後、書庫で帰りがけに起こったことを俺に話した。 沸々と俺の中に怒りが込み上げる。 「手を握られたのは、襲われたのと同じことだ。…だいたい、おまえは隙がありすぎる。書庫を案内するのだって、お前じゃなくていい。…俺以外の男に気を許すな。」 怒りに任せて発した言葉にゆいは口をつぐんで目を伏せた。 …しまった…と思ったが遅かった。 「…すみませんでした。」 ゆいは目を伏せたまま小さく言っただけだった。
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