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俺が外回りから帰り、駐車場か通用口に向かうと、入り口に誰かがいた。
上着を着ているが小柄だ。
近くまで行くと女だとわかった。
さらに近付く。
女は俺の靴音に反応したのだろう、ゆっくり振り返った。
それは…
室井 ゆいだった。
彼女は俺を人目見るなり顔をひきつらせるほど驚いていたが、俺も同じくらい驚いた。
あれから、会社で見かけることはあっても、こんな風に顔を合わせたことはなかったからだ。
無遠慮に声を掛けると、彼女がずぶ濡れなことに気付く。
この雨か?
髪までこんなに…。
思わず触れようとするが、後ろからアイツの声がそれを止めた。
彼女が上着を羽織っていた時点でアイツがいることは想像がついた。
「…触るなって、まるで自分のものみたいに言うんですね?」
俺が嫌味を言うと、アイツは一瞬ためらったが、次に予想外のことを口にした。
「"みたい"じゃない。俺のものだ。」
え?
マジか?
…コイツ、マジで言ってる。
俺の中にイライラとした感情が沸いてくる。
まさか、二人が本当にそんな仲に?
…なったのか?
……だとしたら、壊せばいい。
俺は苛ついた感情とは逆に口許に笑みを作る。
「…じゃあ、部長も知っちゃったんだ。…室井さんて…敏感でしょ?……特に耳がね。」
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