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他の部署からの依頼は私が秘書の業務もしていることもあって、自然と池口さんが窓口みたいになっていた。
私がこの案件に取りかかると、なんとこの日はさらに2件依頼がきた。
「池口は?」
その質問に答えると相手は遠慮するけれど、仕事は仕事。
「こちらの事情は気にしないで下さい。納期の急ぎの順にやりますから納期だけ教えて下さい。」
週の頭から大変な忙しさ。
定時があっという間にやってきて、怒涛の残業時間突入。
気を使って雑用のほとんどは琴ちゃんがこなしてくれた。
琴ちゃんは申し訳なさそうにいつもの時間には帰宅した。
部長と二人だけの事務所。
今までこんなことたくさんあったのに、初めて変に意識してしまう。
けれど、ここは職場。
私は邪心を振り切ってキーボードを打ちこむ。
そんな中。
「…俺のこと…意識してるのか?」
顔を向けるとパソコンの向こうに笑った部長の顔があった。
「…な、し、してません。」
「なーんだ。俺はしてたのに。」
なーんだって、部長、子供みたい。
「嘘です。ホントはドキドキしてました。」
私が白状すると部長は嬉しそうに言う。
「…ドキドキ?…確かめたいな。」
あ、出た。この顔。
「ぶ、部長、ダメですよ。ここは…」
「冗談だよ。」
部長はいたずらっぽく笑った。
束の間の二人の時間。
一日忙しく流れてきた時間の中のほんのひと時の穏やかな時間。
そんな時間を破ったのはまたしてもあの人。
嵐を呼ぶ人、勝野課長。
でも、この日は…
…本当の嵐になってしまった。
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