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勝野課長はノックもせずに入ってきた。
勝野課長は部長だけをまっすぐ見ていたけれど、私の存在に気付くとあからさまにため息をついた。
「あら、室井さんもいたの?」
明らかに迷惑そうな声色だった。
…どうしよう。
…いない方がいいのかな。
なんだか居たたまれなくなって席を立つ。
「…部長。コーヒー入れてきます。」
するとすぐに部長が言う。
「今はいい。室井君は仕事続けて。」
「…はい。」
私は部長に言われて、まずい雰囲気の中、また腰を下ろし、パソコンの液晶に目を移した。
「勝野、何の用だ?」
「あ、…うん。…用事って訳じゃないんだけど。」
勝野課長の歯切れが悪かった。
「じゃあ、何だ?俺と室井君がどんな様子か確かめに来たのか?」
「え。」
「あの夜、俺は成瀬から彼女を迎えに来るよう言われた。成瀬と彼女は何もなかった。…君の計算とは違ったな。」
「…え。な、成瀬から聞いたの?」
「ああ。」
「何もなかったって、信じるの?二人で車内にいて、何もないわけないじゃない!!室井さんだって、あんなんじゃ、何かされてたってわからなかっただけじゃない!?」
「成瀬という男をあまり見くびらない方がいい。アイツはああ見えて男気のある奴だ。」
「な、なんなのよ、成瀬まで。」
「…言っておくが、俺がお前を殴らないのはお前が女だからだ。男だったら今頃は殴り倒してる。お前のしたことはそういうことだ。」
部長の声に私も体が縮む。
本気で言ってる。
「俺と室井君が付き合うのがそんなに気に入らないのか?」
「だって、私の方が、ずっとあなたを想ってたのに!ずっと前から!なんで、なんで、あの子なのよ!?」
勝野課長の声は震えていた。
「それなら、教えてやるが俺も室井君のことは二年以上も想っていた。やっと手に入れたんだ。離すつもりも、離れるつもりもない。」
「…う、…嘘…でしょ。」
…嘘…。
私も驚いてしまった。
…部長。
…二年以上って…?
部長の言葉に胸が締め付けられた。
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