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何も答えない部長に美月さんがため息をつく。
「それで、ゆいちゃんに嫌な思いさせたんじゃないの?小さい男ねえ。彼氏なんだからしっかり構えてなさいよ。小さいことは気にしないの!」
お姉さんに叱られる弟の図。
「今回で学習した。」
部長はそんな風に照れくさそうに返していた。
私はそんな二人に思わず笑っていた。
「ゆいちゃん、どうしたの?」
「ふふ。すみません。姉弟だなぁと思って。」
部長と美月さんが顔を見合わせた。
「そう?そう見えたかな?」
美月さんが嬉しそうに言う。
「はい。お姉さんに叱られる弟でした。」
美月さんはその言葉にさらににっこり笑って、
「秀一とこんな風に会話が出来るの、きっとゆいちゃんのおかげね。」
「え?」
「だって、秀一ってば、姉の私にほとんど顔も見せないんだもん。」
「そうだったんですか?最近はよく来させてもらってると思いますけど。」
「そうね。最近はゆいちゃんのおかげでね。ゆいちゃんの存在が秀一を変えたのかしら?」
「余計なことは言わなくていい。」
部長はそう言って、気まずいのかお手洗いに立った。
それを見送った美月さんが私の耳元に寄って来る。
「秀一がここに連れてきた女の子、ゆいちゃんが初めてなの。あの子なりに私に紹介したつもりなのかなって解釈してるんだけどね。」
その言葉に顔が熱くなる。
嬉しかった。
部長の気持ちも。
今まで以上に部長が美月さんに会いに来ていることも。
部長が戻って来ると、私たちはとりとめもない話をして、美月さんに改めてお礼を言って店を出た。
そして、この日はそのまま自分のアパートに送ってもらった。
翌日から始まる新しい一週間。
決して穏やかなとは言えない一週間が始まろうとしていた。
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