悪い虫

20/30
前へ
/30ページ
次へ
エレベーターが止まり、扉が開くとゆっくりと足を踏み出す。 動悸が早まって、息が苦しい。 …何をしに来たんだろう? 不安で押しつぶされそうだった。 受付に目をやると、美咲が原田専務の居場所を目で合図する。 彼はロビーにいくつかある打ち合わせスペースの一番奥で私を待っていた。 ドクン。ドクン。 心臓が飛び出しそう。 「お待たせしました。」 「へえ。それが君の仕事スタイルか。この間と全くイメージが違うけど、それもいいね。君と仕事してる男たちはかなり我慢強いね。一日中、ムラムラしっぱなしなんじゃない?」 原田専務はのけ反って座ったまま、そんな発言をする。 おまけに視線は相変わらず私を舐めるように撫でている。 「先日は、原田社長のパーティーにお招き頂いてありがとうございました。今日はどういったご用件でしょうか?」 「用件がないと来ちゃだめかな?君に会いに来たんだけど。あ、それが用件か。」 …え? 「…他に…用件は?」 「君に会いに来たんだって。聞いてないの?」 …私は受け答えに困ってしまう。 普通が通用しない。 「…でしたら、…これで失礼してもよろしいですか?」 「待ってよ。来たばっかりじゃないか。それに、この会社、客にコーヒーも出さないの?しかも、取引先の役員にロビーで対応?せめて部屋を用意して欲しいな。」 「…それは、…きちんとした用件でしたら…。」 「これが、この会社の対応なんだね?」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2286人が本棚に入れています
本棚に追加