2286人が本棚に入れています
本棚に追加
応接に入ってすぐ、目に飛び込んだゆいの姿。
藤森に守られるように寄り添っていた。
後ろ姿からでもわかった。
髪と服は乱れ、靴は履いていないし、ストッキングは伝線していた。
ゆいよりも藤森が興奮して帰れと叫んでいるが、このまま帰すわけにはいかない。
落とし前をつけさせる。
俺が怒りに任せて、殴りかかろうと思っていた時、ふいにゆいが社長宛の客のことを口にした。
こんな時に?
しかし、それが彼女の責任感の強さだ。
ゆいの代わりに藤森が見送りに一度出て行き、入れ違いに遠慮していた成瀬が入って来た。
俺は自分のシャツを脱ぎ、ゆいの前側から優しく掛けてやる。俺は幸い下に薄手のTシャツを着ていた。
「…部…長。」
「大丈夫だ。何も言わなくていい。」
辛かっただろう。
抱き締めてやりたい。
今すぐに。
だが、奴の前では出来ない。
「成瀬、ゆいを頼む。」
「あ、ああ。」
俺はアイツに向き直った。
「どういうつもりだ?」
「どういうって、お礼はさせてもらうって言ったじゃん。」
「これが貴様のやり方か。」
「あんた、口の利き方に気をつけろよ。彼女も、さっきのうるさい女も俺のことあんたって呼んでたし、この会社どうなってんの?」
「…今日は…専務として、こちらにみえたのですか?それとも一人の男として?」
言葉をわざと柔らかくした。
「もちろん、専務として。」
「それは。そちらの会社では就業時間内にわざわざ専務さんが、他社の女性に会いに来てこんなことを。」
「何?」
最初のコメントを投稿しよう!