悪い虫

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応接に入ってすぐ、目に飛び込んだゆいの姿。 藤森に守られるように寄り添っていた。 後ろ姿からでもわかった。 髪と服は乱れ、靴は履いていないし、ストッキングは伝線していた。 ゆいよりも藤森が興奮して帰れと叫んでいるが、このまま帰すわけにはいかない。 落とし前をつけさせる。 俺が怒りに任せて、殴りかかろうと思っていた時、ふいにゆいが社長宛の客のことを口にした。 こんな時に? しかし、それが彼女の責任感の強さだ。 ゆいの代わりに藤森が見送りに一度出て行き、入れ違いに遠慮していた成瀬が入って来た。 俺は自分のシャツを脱ぎ、ゆいの前側から優しく掛けてやる。俺は幸い下に薄手のTシャツを着ていた。 「…部…長。」 「大丈夫だ。何も言わなくていい。」 辛かっただろう。 抱き締めてやりたい。 今すぐに。 だが、奴の前では出来ない。 「成瀬、ゆいを頼む。」 「あ、ああ。」 俺はアイツに向き直った。 「どういうつもりだ?」 「どういうって、お礼はさせてもらうって言ったじゃん。」 「これが貴様のやり方か。」 「あんた、口の利き方に気をつけろよ。彼女も、さっきのうるさい女も俺のことあんたって呼んでたし、この会社どうなってんの?」 「…今日は…専務として、こちらにみえたのですか?それとも一人の男として?」 言葉をわざと柔らかくした。 「もちろん、専務として。」 「それは。そちらの会社では就業時間内にわざわざ専務さんが、他社の女性に会いに来てこんなことを。」 「何?」
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