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化粧直しと言って出て行ったものの、ゆいがなかなか戻らない。
俺に顔を会わせたくない気持ちはわかるが、それでも遅過ぎる。
俺は周りを見渡し、会場に原田社長の息子がいないことに胸騒ぎを覚えながら足早に会場を出た。
化粧室の近くまで来て、これ以上進むことに抵抗があったが、不安が先立つ。
俺はそのまま足を進める。
すると、俺の目に飛び込んできたのは奴に囚われたゆいの姿。
ゆいと目が合った瞬間。
ゆいは安堵どころか、引きつった顔をさらに強張らせた。
その表情が痛いくらいに俺の心に突き刺さる。
そんな表情にさせてしまう自分が情けなかった。
ゆいから視線を奴に移して、一度大きく深呼吸して、声を掛ける。そうでもしなければ殴りかかりそうなくらいに頭に血が昇っていた。
「これは専務さん。ちょっといたずらが過ぎますね。」
たっぷりと嫌味を込めて言ったつもりだった。
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