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玄関を上がり、リビングに入る手前で中の様子を窺う。
すぐに踏み込まなかったのは、中が静かだからだ。
一体、誰だ?
中の声に耳をそばだてるが、俺の心臓の音がうるさい。
それでも、何とか中からの声は聞きとれた。
そして、ゆいの言葉で、男が"ヨウちゃん"だとわかった。
「ヨウちゃん、せっかく来てくれたんだけど…、もう彼との約束の時間なの。」
「だから?」
「あ、あの、彼、ちょっと、ヤキモチ焼きだから、こんなとこ見られたらちょっと…、困るかも。」
「…帰れってことだよね?」
「…ごめんね。」
「男はみんな、ヤキモチ焼きだよ。僕だって、ゆいがそんな格好で他の男に会うと思ったら悔しいし。」
「…ヨ、ヨウちゃん?何言って…」
「ゆいがそいつに抱かれるかと思うと……。」
…ヨウちゃん?
「…ヨウちゃん、さっき私のこと…家族みたいな存在だって…。」
「ああ、僕とゆいが結婚したら家族だろ?僕たちの場合、親公認みたいなもんじゃん。将来のって意味。」
「…ヨウちゃん、私…。」
「ね、今日、そいつじゃなくて、僕と過ごさない?ここに迎えに来る前に出ようよ。」
「そんな。」
「ね、行こう。」
その男がゆいの腕を掴む。
「ヨウちゃん!やめて!」
ゆいはその手を振りほどいた。
「…ヨウちゃん、私、今日は……好きな人と過ごしたいの。」
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