誕生日の宣戦布告

18/35
前へ
/35ページ
次へ
会食が終わり、先方を見送ってからタクシーに乗り込む頃にはシートベルトをするのも億劫なほど疲れていた。 昼間のゴルフの後、昼食時にも酒を飲み、夕方までに何とか酔いを冷ましてから、次の接待へ向かった。 2件目の接待での相手が酒豪と言える男で、それに付き合うのが今日は辛かった。 家に着き、ドアを開けると少しだけいつもと違う雰囲気が漂う。 ゆいが今日、掃除に来てくれることは連絡をもらっていた。 ゆいが来たと思うからなのか、 ゆいが恋しい。 俺は静かな部屋に 「ただいま。」を言った。 投げ出すようにソファに体を埋める。 大きく息を吐いた後、ふとテーブルに一枚のメモ用紙を見つけた。 ## 秀一さんへ おかえりなさい。 お疲れさまです。 昨日は涼太のこと、ありがとうございました。 休む間もなく接待が続いて、今日はすごく疲れてるかもしれませんね。 明日も接待。 体が心配です。 今日は早く休んで下さいね。 明日、疲れてる時に会いたいなんてわがまま言ってごめんなさい。 でも、会いたくて。 わがままでごめんなさい。 でも、会いたくて。 おやすみなさい。 ゆい。 ## ゆいからの手紙だった。 疲れてたことも忘れてソファから体を起こし、身を乗りだすようにして手紙を読んだ。 いつも達筆なゆいの文字が、今日はわずかに丸みを帯びて、ゆいの優しさが滲み出ているようだった。 二度も書かれた "会いたくて"に、 「…俺も会いたい。」 と一人つぶやいた。 何度もゆいの手紙を読み返した後、今すぐに会いたくなる衝動を抑えるために、水を飲もうとゆっくり腰を上げた。 冷蔵庫には冷たいお茶が用意されていて、俺はそれをグラスに注ぐ。 キッチンのカウンターには同じグラスに、小さな花が飾られていた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2390人が本棚に入れています
本棚に追加