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俺はそこで、もう一度玄関のドアを開閉してわざと大きく音を立てた。
そして、あたかも今入って来たかのようにゆいの名前を呼ぶ。
「ゆい。支度は出来てるか?」
リビングに入るとゆいと目が合う。
この状況を俺に見られたことで、今までの経験からか顔だけでなく体までもが瞬時に硬直したのがわかった。
「…あ、…秀一…さん。…あの。」
言葉も出ずにうろたえるゆいに俺から声を掛ける。
「ゆい、こちらは?」
優しく言ったつもりだ。
「…あ、あの、幼馴染の桐野 要さんです。…お、お花を届けてくれて。」
「それはわざわざすみません。私は西島と言います。すみませんが、これから出掛ける用事がありまして。」
「今、帰るところですから。」
そう言うと彼は俺の前まで歩み寄って、正面からこう言った。
「桐野です。…春からの付き合いだそうですね?ゆいのことは僕の方がよく知ってると思います。幼馴染というより、"いいなずけ"と言った方がいいでしょうか。」
それは俺に対する宣戦布告だった。
そして、ゆいに向き直り、
笑顔を投げる。
「じゃ、ゆい。またね。」
ゆいは返事をしなかった。
彼はそのまま玄関に向かい、静かに帰って行った。
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