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部長が部屋に入って来た時、息が止まるかと思うほど、怖かった。
責められることは覚悟してたけど、今日という日が笑顔で過ごせなくなることの方がショックだった。
それなのに、今日の部長はいつもと違った。
私を少しも責めようとはせず、ヨウちゃんにでさえ感情をぶつけなかった。
私は安心するよりも先に驚いちゃったけど、部長の笑顔は無理につくったものじゃないってわかったから、そこで初めてホッとした。
車の中で部長が言った。
「…こんな日に悲しい顔をさせたくない。…」
…こんな日って…?
部長が連れてきてくれたのは、レトロな雰囲気の小さなレストラン。
中に入ると甘いピアノの音が耳に流れ込む。
「予約している西島です。」
近づいてきたウェイターさんにそう言っていた時、その奥から一際大きな声が部長を呼んだ。
「おお!西島!待ってたぞ!」
奥から現れたのは、部長と同い年くらいの男性だった。
「お前、この子が彼女?って、マジで可愛いし。あ、ごめんね。俺、金井 聡(サトシ)。西島とは大学からの付き合いで、ここのオーナー。よろしくね。」
「…はじめまして。」
私が頭を下げると、
「ゆいだ。席は?」
部長は私を短く紹介して席を催促した。
「ああ、あの席取ってあるよ。だけど、ホント、マジで可愛い。」
「人のものをジロジロ見るな。ゆい。行くぞ。」
部長は私の手を引いてその席に足を向けた。
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