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私たちが通されたのは、二階席の隅。
小さいレストランでありながら、二階建ての構造で、私たちの席の斜め下に中二階の小さなスペースがあり、そこにピアノが置かれていた。
そして、今流れている音楽もそこで一人の女性が奏でているものだった。
「素敵!秀一さん!ここすごく素敵です!」
「気に入ったか?特等席だ。」
私たちはそのピアノを見下ろすように隣合わせで腰を下ろす。
テーブルに手をついて演奏に聞き入っていると、その手に部長の手が重なる。
大きな手。
淡い照明の店内で、見つめ合うと思わずキスしたくなってしまう。
こらこら。
そう思って一瞬視線を逸らすと
「ゆいが今、何考えてるか当ててやろうか?」
「え?」
視線を部長に戻すといつものあの顔。
「…な、何も考えてませんよ。」
「ふーん。どうかな?」
そう言いながら私の手に妖しく指を絡めてくる。
「やっぱり、ゆいの言う通り、ゆいの家で夕飯にすれば良かったかな。ここでするわけにもいかないし。」
ぶ、部長、顔が近い!
「何をするって?」
うわぁ!!
料理を運んできた金井さんがニタニタと部長を見て笑う。
「あ、キスくらい構わないよ。でも、その先は我慢してね。一応健全なお店だし。」
私は顔から火が拭き出そうだったけど、部長はやっぱりいつも通り平然としていた。
「来たなら早く言え。」
「はい?お前が彼女に夢中で気付かなかっただけだろ?ねーゆいちゃん。」
そう言いながら、金井さんはテーブルに料理を並べてくれた。
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