誕生日の宣戦布告

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人にプレゼントを渡すなんていったいどれくらいぶりだろうか。 そんな俺は密かに緊張していた。 リボンをほどくゆいの震える手が、俺の気持ちを表しているように思えた。 箱を開けた時のゆいの顔。 ケーキが運ばれてきた時と同じように子供みたいに喜ぶ顔のどこかに、今にも泣きそうなほどの切なさが込められていた。 俺は心から安堵した。 嬉しそうに俺のペンと交互に見比べるゆいを見て、 「そんなに喜んでくれるなら、指輪にすればよかったな。」 と漏らす。 ゆいは目を丸くした。 「でも、ゆいの性格からして、堂々と会社に指輪をして行けるとも思えない。これなら、会社でも持っていられるだろ?」 そう言うと、ゆいはペンを目線の高さまでゆっくり上げて、もう一度大切そうにそれを眺めた。 その姿は、指輪をはめて手をかざし、それに見とれる姿となんら変わりはなかった。 「嬉しい。」と「ありがとう。」を繰り返したゆいの元にデザートが運ばれてくる。 デザートを前にしても、それから目を離さないゆいに声を掛ける。 「ゆい。アイスが溶けるぞ。」 ゆいは丁寧にプレゼントを箱に仕舞い直し、もう一度俺に笑顔を向けて、半分溶けたアイスを嬉しそうに食べていた。
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