誕生日の宣戦布告

5/35
前へ
/35ページ
次へ
「今日、原田社長がみえたのは、先日の原田専務の行いの謝罪をするためだったんだよ。」 私は言葉もなく、社長をじっと見返した。 「あれから、私はあの件について原田社長に連絡を入れた。」 …そうだったんだ。 一瞬目を伏せる。 私は何とも言えない気持ちだった。 「私はこの会社の社長として、やはり大切な社員を守る義務がある。あのままなかったことにすることは出来なかった。もちろん、このことを知るのはあの時いた彼らと原田社長だけだ。君は何も心配しなくていい。原田社長はすぐにでも謝罪に。そして君にも謝罪をと言ったんだが、それを私が遠慮してもらったんだ。君の気持ちを考えるとね。」 社長はそこで、話を区切って優しく笑った。 「でも、君は思ってたより強いみたいだ。それとも、西島君のおかげかな?」 「あ、…はい。部長と…他にも支えてくれる人がいてくれて…。私はもう大丈夫です。」 「そうか。良かった。今日、原田社長は君にいつも通りに接しただろう?」 「はい。」 少し元気がなかったのはあの事を知ってたからなんだ。 「それは、一言君に謝罪するよりも辛いことかもしれない。息子の不埒を知らない馬鹿な父親と君に思われ、自分を辱めることで君への償いをしようとしているのかもしれない。どうかわかって欲しい。」 馬鹿な父親……そんな風に思えるはずない。 あの事を知った上でのあの笑顔。 胸が痛かった。 「君はこれからも変わらない態度で原田社長に接してくれればいい。君の態度が社長をまた明るくしてくれるだろう。いいね?」 「…はい。」 「すまないが、もう一度コーヒーをもらえるかな。熱いのを頼むよ。」 「はい、すぐにお持ちします。」 私に向けられた社長の笑顔は何もかも大丈夫だと念を押してくれているようだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2390人が本棚に入れています
本棚に追加