急な訪問者

10/32
前へ
/32ページ
次へ
「おはようございます。」 「おはよう。」 私と部長は会社の事務所で挨拶を交わしていた。 二人とも緩む顔を抑えられなくて、声を出して笑った。 しばらくして、池口さんが入って来ると、部長は背を向け、私は不自然にならないように口元を押さえながら挨拶した。 三連休が明けた週始め、今週はまた忙しくなる。 忙しい日中のデスクワーク。 それなのに、ときどき私の顔が緩んでしまうのは、 私の手に握られた部長からのプレゼントのせい。 使うのが惜しいほど綺麗で素敵なんだけど、使わなかったら意味ないもんね。 「室井君。」 部長に呼ばれて部長の席に向かう。 「これ、夕方までに頼めるか?」 「はい。」 部長の目から視線を下にずらすと、胸元のポケットに私とお揃いの黒いペンが刺さっていた。 …あ、顔が熱い…。 自分の顔色に心配になりながら席に戻った。 私と入れ違いに琴ちゃんが部長の席に行き、書類にサインをお願いしている。 池口さんも私の顔には気付いていないみたい。 ホッと胸を撫で下ろした。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2333人が本棚に入れています
本棚に追加