守りたいもの

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翌日。 いつもよりも早く目覚めた。 部長が私の横で寝息を立てている。 それだけで幸せな朝だった。 起こさないようにそっとベッドを抜け出して、まずは洗面所へ向かった。 恐る恐る鏡を覗きこむ。 「…やっぱし。…腫れるよね…。」 泣いたせいで、瞼が腫れ腫れ。 …今日は出勤なのに。 やっぱ、早く起きて正解だった。 冷やし作戦開始。 顔を洗って、化粧水なんかをはたいた後、朝ごはんを作りながらビニール袋に入れた氷で冷やす。 その間にも部長が起きてきた。 そして、いつもと変わらない日常をくれる。 「ゆい。おはよう。」 「秀一さん、おはようございます。」 部長が私を抱きしめてくれる。 何でもないことに涙が滲んでしまう。 「あ、あ、あの、秀一さん…。嬉しいけど、嬉しくて泣いちゃうから…。私、これ以上泣いたら顔が…。」 涙をぐっと堪える。 「…俺はまだこうしていたい。」 「…だ、めです。ホントに、会社に行けなくなります。」 「しょうがないな。」 部長が私から体を離そうとした時、それを少しだけ引きとめるようにTシャツの端を握った。 「あ、でも、あの。…今日の夜は、夜は…いっぱいして…欲しいです。」 すると、部長はあの顔を見せた。 「…ゆい。嬉しいけど、朝からそれを言われたら、俺は夜までどうやって我慢すればいいんだ?」 そう言いながら手が胸元に伸びてくる。 「しゅ、秀一さん!ダメです!ご飯にしますよ!早く顔を洗ってきてください!」 私は部長の背中を押して洗面所に追いやった。 「わかったから押すなよ。」 こうやって、部長がくれる日常という幸せが、今日だけでなく明日からの未来もずっと続けばいいな。 お味噌汁を味見しながら、 私はそう強く願っていた。
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